① 肺がんとは
肺がんとは気管支や肺胞の細胞ががん化したものです。
進行すると、がん細胞が周りの組織を破壊しながら増殖し、血液やリンパ液の流れに乗って広がっていきます。転移しやすい場所は、リンパ節、脳、肝臓、副腎、骨があります。
肺がんには大きく分けて2種類、細かく分けて4種類に分かれます
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組織分類 |
特徴 |
小細胞肺がん |
小細胞がん |
増殖が速い・転移しやすい・喫煙との関連が大きい |
非小細胞肺がん |
腺がん |
肺がんの中で最も多い・症状が出にくい |
扁平上皮がん |
血痰などの症状が出やすい・喫煙との関連が大きい |
大細胞がん |
増殖が速い・小細胞がんと似るようなことがある |
② 疫学・統計
肺がんと診断される人数は、1年間に10万人あたり88.7人です。40歳代後半から増加し始め高齢になるほど高くなります。男女別の罹患率でみると、男性は女性の2倍以上です。
肺がんは喫煙との関連が非常に大きいがんです。たばこを吸う人が肺がんになるリスクは男性で4.4倍、女性で2.8倍と高くなります。
たばこを吸わない人でも、受動喫煙により発症する危険性が高まることもわかっています。
③治療成績
通常がんの治療成績を表すときに使用するものとして5年生存率という言葉があります。
正確にいうと5年相対性生存率といい、がんと診断されていない人と比較して、肺がんと診断された人がどれくらいの割合で生存しているかという数値になります。(よって5年相対生存率100%だからといって、がんと診断された人全員が5年後に100%と生存しているわけではありません)
全国がん(成人病)センター協議会によると下記のようになっております。
病期 |
5年相対生存率(%) |
Ⅰ |
83.8 |
Ⅱ |
50.1 |
Ⅲ |
22.4 |
Ⅳ |
4.8 |
全症例 |
44.7 |
これは外科手術、放射線治療、化学療法などなんらかの治療を受けた患者さんが対象となっております。
よってそれぞれの病院が出している5年相対生存率は異なります。注意しなければいけないのは仮に5年相対生存率80%の病院と50%の病院があったときに一概にどちらがいいのかは判断できない点です。治療成績がいいようにみえてもそれは病期が低い患者さんだけを対象としている可能性もあるので数値のみを鵜吞みにしないようにしましょう。
また肺がんは他のがんに比べて病気分類が複雑になっており同じⅡ期、Ⅲ期でも状況はかなり異なります。また小細胞肺がんは手術が可能な早期に発見されることは少なく化学療法・放射線治療が中心となることが多く、非小細胞肺がんは早期ならば外科手術を中心に考えるなど単なる病期だけでは判断できない要素が多くあります。
④治療方法
ここでは簡潔に書いてありますので詳細はそれぞれの主治医に確認してください。
(1)外科手術
手術ができるかどうかについては、手術前の呼吸機能(含め全身状態)が大きく影響します。また喫煙している方は十分な禁煙期間(1カ月以上)を設けることが大切です。
非小細胞肺がんの標準的な治療法は手術です。病期がI期、II期、またIIIA期の一部の場合は手術が可能になります。小細胞肺がんの場合は限局型のI期で手術を行うことがあります。
手術は多くの場合胸腔鏡補助の下で行われることが多く私の以前勤務していた病院でもほぼ全例で胸腔鏡を使用しておりました。また術後に痰をしっかりと出せて呼吸機能を回復させることが大切になるため術後の痛みの対処がとても大切になります。
(2)放射線治療
治癒を目的に行う「根治的放射線治療」と、骨や脳などへの転移で起こる症状を緩和する目的で行う「緩和的放射線治療」があります。小細胞肺がんで限局型の場合は、脳への転移を予防するために、脳全体に放射線を照射する「予防的全脳照射」を行うこともあります。
根治的放射線治療の適応は組織型や病期によりますので主治医と相談してください。
治療のスケジュールは非小細胞肺がんの場合、1日1回2Gy(グレイ)の照射を週5回、合計6週間で60Gyを照射するのが標準的です。小細胞肺がんは、細胞分裂の速さを考慮し、照射と照射の間に放射線が効きにくい細胞が出現しないよう、1回1.5Gyの照射を1日2回週5回照射し、合計3週間で45Gy照射する加速多分割照射が行われる場合もあります。
(3)化学療法
いわゆる抗がん剤治療です。術前に抗がん剤を行い目に見えないような小さな転移をターゲットにしたり、大きすぎて切除できないものを小さくして切除する方法がありますがまだ効果は確立されていません。術後に抗がん剤を行う術後補助化学療法はⅡ期Ⅲ期を対象にして行われ5年相対生存率が10%程度改善すると言われております。
その他手術適応がない場合にも化学療法の適応はあり行われます。化学療法には決まったルールがあります。現在日本ではおそらく多くの病院で標準治療を遵守しているためガイドラインに沿った治療がどこでも受けられるでしょう。
治療医の先生があまり言わないことですが化学療法の意味は基本的には少しでも余命を伸ばすことがほとんどです。ただし最近は化学療法で根治する可能性も出てきているようです。今自分がやっている治療が何を目的にしているのか(漫然とがんと闘うだけでなく、その治療をやることでどのようなメリットがあるのか)をよく主治医と相談して治療を行うか考えてください。
よくある例としては抗がん剤には1次化学療法から始まり効果判定や副作用によって2次、3次となっていきます。主治医も患者さんも1次化学療法の時点では根治が狙える可能性や少なくとも年単位で余命が伸びることを期待して行っているかもしれません。そういった目標があるから辛い副作用にも耐えようと思うのです。しかし2次、3次となってくると主治医は症例によっては余命が3か月を5か月にできたらいいなど考えていくようになります。一方で患者さんはまだ根治を考えるので辛い副作用に耐えている…こういったケースは沢山見てきました。その時、その時でよく主治医と相談して治療を決めていくことをおすすめします。
(4)免疫療法
2017年ニボルマブという免疫療法の薬剤が保険適応になりました。それまでは悪性黒色腫や肺がんの一部などに適応となっておりましたが追加承認という形です。
ただし最初から選択できる治療ではなく、また施設も限られているので検討したい方は主治医と相談するようにしてください。
当院としては保険診療外の自費治療における免疫療法は推奨しておりませんので、そういった自費診療のクリニックをご紹介もしておりません。もちろん患者さんが希望して行うことに何ら問題はありませんのでもし不明点などあればいつでもご相談してください。
⑤緩和期に起きうる症状と対応について
(1)息苦しさ
肺は呼吸をするための場所です。そこに障害が加われば当然出てくる症状の一つとして息苦しさがあります。息苦しさはオピオイド(モルヒネなど)をしっかり使用することでかなりの方で症状を緩和することが可能です。また家でも酸素の機械をいれることで在宅酸素療法を行うことができます。その他数種類の薬剤を併用して症状緩和を行います。
また呼吸の仕方を確認するという意味でも呼吸器リハビリテーションは重要になります
(2)咳嗽・血痰
肺がんの症状の一つとして咳き込みがあります。通常の風邪の時の咳き込みとは異なり肺がんに伴う咳き込みは継続していくことがほとんどです。鎮咳薬といわれる咳止めの薬剤を使用することでコントロールを試みます。またオピオイド(モルヒネなど)はかなり効果の高い咳止めです。状況に応じて使用を検討します。
血痰はなかなか止めることが難しい症状です。止血薬の内服や場合によっては注射を行うことで対応します
(3)飲み込みづらさ
ある意味肺がんで特徴的な症状の一つと考えられます。喉や食道のがんなどではよくある症状ですが肺がんでもかなり高頻度でみられる症状です。
柔らかいご飯や栄養補助食品・薬剤を使用することで対応します。
誤嚥性肺炎の高いリスクになるため注意深く観察していくことが大切です。また嚥下機能のリハビリをしっかりと行い、追加嚥下などの方法を知ることで少しでも飲み込みやすくするようにしていきます。
(4)痛み
肺がんの痛みは胸膜という胸そのものの痛みの他に、骨への転移に伴う痛みの頻度が高くなります。痛みの性質や部位によって使用する薬剤は異なりますが、一般的には可能ならば骨転移の痛みに関しては放射線治療をまずはすすめることが多いです。1度だけでなく何度か緩和的放射線治療を行う方もいます。薬剤としてはNSAIDs(ロキソニンなど)やオピオイド(モルヒネなど)をしっかりと調整することで、一般的に痛みはコントロールできることが多いです。内服薬以外に貼付剤、坐薬、口腔内崩壊錠、注射など病院で使用できるものはすべて在宅でも使用可能です。
(5)倦怠感・食思不振
どのがんでも出てくる症状です。ステロイドを使用し一時的な改善を認める場合もありますが長期間効果が持続するものでなく副作用もあるため時期や状況をみて調整を考慮します。