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在宅という選択 医療法人社団オリーブ 清澄ケアクリニック

大腸がん

①大腸がんとは

大腸がんは、長さ約2mの大腸(盲腸・結腸・直腸・肛門)に発生するがんで、日本人ではS状結腸と直腸が多いと言われております。
大腸粘膜の細胞から発生した良性のポリープの一部ががん化して発生したものと、正常な粘膜から直接発生するものがあります。粘膜の表面から発生したあと、大腸の壁に次第に深く侵入していき、進行するにつれてリンパ節や肝臓、肺など別の臓器に転移します。
発生した部位によって転移しやすい場所は異なります。

②疫学・統計

大腸がんにかかる割合は、40歳代から増加し始め、50歳代で加速され、高齢になるほど高くなります。大腸がんは男性では女性の約2倍と高く、部位別では結腸がんより直腸がんにおいて男女差が大きい傾向があるようです。
大腸がんの罹患率をみると、1990年代前半までは増加し、その後は横ばい傾向にあります。大腸がんで亡くなる患者さんの死亡率は、1990年代半ばまで増加し、その後は減る傾向にあります。男女とも、大腸がんの生存率は比較的高くなっております。
大腸がんの発生要因としてはいわゆる飲酒や肥満など含め食の欧米化が関係していると言われております。

③治療成績

通常がんの治療成績を表すときに使用するものとして5年生存率という言葉があります。
正確にいうと5年相対性生存率といい、がんと診断されていない人と比較して、大腸がんと診断された人がどれくらいの割合で生存しているかという数値になります。(よって5年相対生存率100%だからといって、がんと診断された人全員が5年後に100%と生存しているわけではありません)
全国がん(成人病)センター協議会によると下記のようになっております。

病期 5年相対生存率(%)
98.8
91.3
82.1
18.5
全症例 76.1

これは外科手術、放射線治療、化学療法などなんらかの治療を受けた患者さんが対象となっております。
よってそれぞれの病院が出している5年相対生存率は異なります。注意しなければいけないのは仮に5年相対生存率80%の病院と50%の病院があったときに一概にどちらがいいのかは判断できない点です。治療成績がいいようにみえてもそれは病期が低い患者さんだけを対象としている可能性もあるので数値のみを鵜吞みにしないようにしましょう。

④治療方法

ここでは簡潔に書いてありますので詳細はそれぞれの主治医に確認してください。

(1)外科手術

A)結腸がんの手術

がんの部位から両側に10cmほど離れたところの腸管を切除し、縫い合わせます。結腸がんの場合、手術後の機能障害はほとんど起こりません。
がんの部位によって切除する範囲が決定し、手術名は部位によって回盲部切除術、結腸右半切除術、横行結腸切除術、結腸左半切除術、S状結腸切除術などとなります。

B)直腸がんの手術

直腸は骨盤内の深く狭いところにあり、その周囲には神経や筋肉、前立腺・膀胱・子宮・卵巣など排便、排尿、性機能などの役割がある日常生活で重要な器官があります。これらは、骨盤内の自律神経によって調節されています。
直腸がん手術での自律神経温存術とは、排尿機能と性機能を調節する自律神経を手術中に確認し、自律神経を残す手術法です。すべての神経が残せれば、手術前と同様な機能を保つことが可能です。しかし、がんが自律神経の近くに及んでいるときは、神経を切除する手術が必要な場合もあり、機能障害が起こる可能性があります。

C)バイパス手術

がんによって大腸が閉塞してしまった場合腸閉塞と呼ばれる状態になります。そうなると食事が通過しなくなるため迂回路を作ることで食事摂取が可能になります。バイパス術でなく人工肛門を作ることで閉塞前に人工的に作った肛門から排泄を行う方法もとられます。

(2)内視鏡手術

早期でがんの深さがまだ浅くリンパ節転移などない時には内視鏡でその部分だけとってしまうという方法もあります。外科手術に比較してほぼ体の負担はありません。ただし実際に大丈夫かどうかは内視鏡手術で取り除いたがんを病理検査でみることで判明するため、内視鏡手術を行った後に追加で外科手術が必要になる場合もあります。

(3)放射線治療

直腸がんでは、骨盤内からの再発の抑制、手術前のがんの大きさを縮小する、肛門を温存する、などを目的として行う「補助放射線治療」と、切除が難しい骨盤内のがんによる痛みなどの症状緩和を目的で行う「緩和的放射線治療」があります。
その他骨転移などで痛みが出た場合にも骨転移部位に緩和的放射線治療を行うことがあります。

(4)化学療法

いわゆる抗がん剤治療です。手術と組み合わせて行われる「補助化学療法」と、手術による治癒が難しい状況で延命や症状コントロール目的で行われる「緩和的化学療法」があります。緩和的化学療法は、大腸がんを完全に治すことが難しい場合でも、がん自体の進行を抑え、延命および症状を軽減することを目標として行われます。近年の化学療法の発展により、手術できない状況であっても、化学療法が著しく効いたことにより手術可能となった場合には、手術が行われる症例も増えております

化学療法には決まったルールがあります。現在日本ではおそらく多くの病院で標準治療を遵守しているためガイドラインに沿った治療がどこでも受けられるでしょう。
今自分がやっている治療が何を目的にしているのか(漫然とがんと闘うだけでなく、その治療をやることでどのようなメリットがあるのか)をよく主治医と相談して治療を行うか考えてください。
よくある例としては抗がん剤には1次化学療法から始まり効果判定や副作用によって2次、3次、4次となっていきます。主治医も患者さんも1次化学療法の時点では根治が狙える可能性や少なくとも年単位で余命が伸びることを期待して行っているかもしれません。そういった目標があるから辛い副作用にも耐えようと思うのです。しかし2次、3次となってくると主治医は症例によっては余命が3か月を5か月にできたらいいなど考えていくようになります。一方で患者さんはまだ根治を考えるので辛い副作用に耐えている…こういったケースは沢山見てきました。その時、その時でよく主治医と相談して治療を決めていくことをおすすめします。

(5)免疫療法

現在大腸がんに適応のある保険診療の免疫療法はありません。
当院としては保険診療外の自費治療における免疫療法は推奨しておりませんので、そういった自費診療のクリニックをご紹介もしておりません。もちろん患者さんが希望して行うことに何ら問題はありませんのでもし不明点などあればいつでもご相談してください。

⑤緩和期に起きうる症状と対応について

(1)通過障害(腸閉塞)

大腸がんで最も大きな問題になる症状の一つです。仮に大腸がんそのものの手術は病気が進んでいて難しいとしても腸閉塞を回避するためだけに人工肛門の手術をすることがあります。
その他として人工肛門の手術は行わずに高カロリー輸液という点滴で生活を送る方法があります。
人工肛門手術や高カロリー輸液などやらない場合でも吐気やお腹の張りを改善するためにステロイド、ソマトスタチンなど使用一時的な改善をみる場合もあります。
またもともと通過障害の可能性が高い(大腸がせまくなっている)場合には下剤を調整し大便を柔らかくすることでつまりにくくするなどの工夫を行います。

(2)倦怠感・食思不振

どのがんでも出てくる症状です。ステロイドを使用し一時的な改善を認める場合もありますが長期間効果が持続するものでなく副作用もあるため時期や状況をみて調整を考慮します。

(3)痛み

大腸がんの痛みは内蔵痛や神経障害性疼痛、骨転移による骨痛など様々なものが考えられます。どの痛みかによって薬剤の使い分けがありますので詳細は緩和医療の専門家に聞くのが最もいいでしょう。一般的にはNSAIDs、アセトアミノフェンなどの一般的なものからオピオイド(モルヒネなど)までをしっかりと調整することで痛みはコントロールできることが多いです。内服薬以外に貼付剤、坐薬、口腔内崩壊錠、注射など病院で使用できるものはすべて在宅でも使用可能です。
神経障害性疼痛は比較的難しい部類の薬剤調整となります。詳細は主治医に確認するといいでしょう。